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romancista
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友人と待ち合わせの時間までまだ間があったので、地下にある古本屋に入ったとき、見つけた一冊。
『毒の名はユニオン』は、『ハムレット』論と小説の合体したような本です。待ち合わせの時間になったので、そこで、やめればいいのに(荷物になるだけ)買ってしまった。

著者は経歴など一切出してなく、「ある日、書店の店頭で気まぐれに」『ハムレット』を買ったといいます。これは普通に出回る日本国内の文庫本のこと。それを読んで、これまでの読み方(研究者の解釈)は間違いだと気がついた、のだそうです。以下、要約。

===================================
ハムレット冒頭、「そこにいるのは誰か?」という台詞と、最後の「もう何も言わぬ」が呼応している。誰なのか、という問いに、口を割らないハムレットは、自分が何者かを知っていて、黙っている。
なぜか? それはハムレット出生の秘密に話がさかのぼる。
ハムレットが生まれたのは、墓守の台詞によれば30年前、だから彼は30歳。当時、先の王ハムレットつまり王子ハムレットの父上は、ノルウェーやポーランドと戦争を繰り返してことごとく勝っていた。けれど、ずっと戦争に出っ放しだったのに、王子が生まれる。弟のクローディアスは何をしていたのか?戦争には行かないので城にいたはずである。のちのち、兄の葬式もそこそこにべっとりと再婚したがる王妃と一緒にいたわけである。
ハムレットは、母の早すぎる再婚に疑念を抱いた。尊敬する父上が実の父親ではないかも知れない。
けれども、輝かしいハーキュリーズさながらの父上こそ父だ、と内外にアナウンスしているので、そこは黙っておけばすむことだ。30にもなって、もう親がどうとか悩むことはない。国民の人気も叔父ではなく自分に向いていること、賢い王子は承知の上で、ドイツから舞い戻ってきたのだ。
しかし問題はそれではすまなかった。叔父の過去をしらべているうちに一人の女性を自殺に追いやった一件が浮かび上がってきたのだ。クローディアスは娘をもうけたその相手に結婚の約束をしていた。ということは、そういう約束ができるくらいの身分のある女性だったと思われる。ところが、結局は家臣のひとりに「払い下げ」た。その家臣は妻を亡くしており、息子がひとりいた。再婚した妻は間もなく発狂して溺死してしまう。そして、その家臣は、その一件を黙っておくという条件で、能力に見合わない出世をとげた。

ハムレットはそこで資料をパタンと閉じる。または、密偵か何かに頼んでいたならメモだから、火に投じる。そして放心状態で最愛のオフィーリアの顔を見に行く。

「私の手首をぎゅっととらえ、お手の伸びるだけ身をそらして、片方の手をこうかざし、肖像画でも描くがように私の顔をじっと見つめて……」(2幕1場)

オフィーリアは、ハムレットの異常行動をすぐさま父親に報告、「お前に恋して気が狂ったか」と早々に結論するポローニアス。
けれども真相はまるで違う。ハムレットにしてみれば、オフィーリアは、仇の血を引く娘である。そんな相手と結婚することはできない。自分の出生を闇に葬って終わりにしたかったハムレットは、ここに決して解決できない障害を見てしまう。
だからこそオフィーリアに尼寺に行けという。彼女のほうは、唐突に結論だけを言われて意味がわからず、ハムレットが発狂して恋が終わったと思う。ハムレットが王妃の部屋でポローニアスを刺し殺したのには、被害者にかなり落ち度もあるのだが、オフィーリアには、父親を「ねずみ」よばわりし殺したという話しか伝わってこないだろう。兄の思いやりある言葉がよみがえる。王子がいろいろ言っても本気にしてはいけない。そんなのは気まぐれだ。
オフィーリアの発狂は、悲しみを超えている。父親よりも、誇りを傷つけられたショックで狂う母親の記憶によるのである。王宮に雑草を持ち込んで歌う彼女は、母親の恨み節をここでそこにいる宮廷人すべてにぶつける。

「顔もかくさず柩車に載せて
ヘイノンノンニー、ヘイノンノンニー
墓には降ります 涙の雨が
さようなら、さようなら」(4幕5場)

そして退場するときは「私の馬車を!」と要求。
なぜなら、クローディアスが王ならば、今オフィーリアと一体化している母が王妃であろう。
その母の葬儀のときの、雨の中、車を追った記憶をオフィーリアは忘れない。
そしてクローディアスが王位簒奪者でハムレットが王位を取り戻すならば、自分が王妃であろう。
無論、そんな約束は気まぐれだった。だがしかし決着をつけてくれるとすれば。

「何事もよいほうにいくでしょう。ここはじっと我慢しておかなければ。といっても、泣かないではいられませぬ。冷たいところに寝かされているのかと思うと。兄が今に知りましょう。」(同場)

《私の母上の血筋を考えれば、兄さん、レアティーズ、あなたを王にと担ぐ人々もいるでしょう》

オフィーリアは狂乱の態度だが、それはみせかけである。母がされたのと同じこそこそした父の埋葬を非難し、母と同様に川に飛び込んで抗議の自殺である。そうでもすれば、兄も覚悟を決めて王家と対決するだろうから。

暴徒を味方にしたはずのレアティーズはクローディアスに丸め込まれるが、そこにひとつの毒を持ち込んだ。フランス留学の成果といったら、この人はこれしかないみたいである。だが、ハムレットを決して生かして返さないためには、その毒は切り札である。性急なレアティーズがそこまで深く考える余裕はなかったかも知れないが、それこそ王権に翻弄されたポローニアス一家の怨念がこもる毒物。王は念入りに杯にも毒を入れて、ハムレットが生き延びない包囲網を作る。そして本番、王は高々と杯を掲げ、代々王家に伝わる王冠についている最も立派な真珠を投じるぞ、という。このとき、pearlではなく、unionと書かれているが、文脈から見て投じるのは真珠である。

杯の酒を飲んで王妃が倒れ、クローディアスが刺されて死に、ハムレットも切り傷から回って毒死する。だが最初に戻れば、先の王も毒を耳から注がれて死んでしまった。デンマーク王家を滅ぼしたのは、まさに「毒」であって、フォーティンブラスが乗り込んできたときには、流血のわりには倒れている人間が多いことに驚いたのではあるまいか。
ちなみに、ローレンス・オリヴィエがのたまうところでは、「耳」に注がれるの毒の意味には、性的なニュアンスがあるそうだ。クローディアスの女好きから生じた乱れを見てみぬフリをしてきた王家は、それらの人々の悲しみや憤りの結合(union)によって、国そのものを失ったのである。

『毒の名はユニオン』2008年発行 海鳥社

なんてね。こんな本は実在しません。今日は何の日?フフーン♪


ですが、似た本は実在します。その本から使えそうなところだけ抜粋してそれらしく書いてみた。
その本は『よみがえる「ハムレット」』といいます。2008年発行 海鳥社は本当。実際手元にある。
なんで抜粋して変えたかというと、内容は、上記の感じでセンセーショナルというか、わりかし面白いけれど、とてもじゃないが承服しかねるのです。オフィーリアの母親がだまされて捨てられた、というのはありえない話じゃないかと思うけど、レアティーズもハムレットも父親はクローディアスというのは乱暴すぎる。
著者は原文に当たっていないとあとがきで述べています。おお、さすが。これこそトリックのネタばらしを聞いたような気分でした。あとがきに「ロミオとジュリエットも正しく理解されていない」と書いてあるので、第2弾を期待しています。

というか、ラジオでやってほしい。
「男にだまされた女の歌が続くのだ。「よくも、だましたな! このままですむと思ったら大間違いだぞ。誓ってそうはさせない」と、オフィーリアの母が叫んでいるのだ」
文中、こういう表現が一杯出てくるんですよ。学術書ではありえない、「!」の多さ。NHK第2の原書で読む世界の名作ばりに、なりきってやってほしい。

尚、サイトの記事にて、この本のおかげで浮上してきた『ハムレット』のいくつかの謎に触れています。
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