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romancista
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こないだと同じ本屋にて。
最近、岩波文庫で知らない題名で、ヒットが続いてます。前回のヒットは『五足の靴』という日本のでしたが、これはイギリスの戯曲です。非常に薄い上に先が気になるスピーディな展開で一気に読めます。

舞台はイギリス中西部の工業都市。時代は1912年。そこで工場の経営者とその家族という、いわばノーブルではないけど富裕な一家がささやかなお祝いをしている、家の食堂で話は進みます。
登場人物はその経営者と妻(社会的地位は夫より上)、20代前半の娘とその婚約者。娘の弟。
娘と婚約者の門出を祝って、父親がスピーチをしていますが、その話はたびたび妨害され、ちっとも進みません。そしてそこへ来訪者があるのです。彼はグール警部と名乗っています。

警察が、夜の、しかも家族が祝い事をしているときに無礼にも入ってくるとは何事か、と父母はブリブリします。若者3人も歓迎はしない。けれども警部は全然平気で、救急病院で死んだ娘の話を始めるのです。
彼女は自殺だった。消毒液を飲んで、苦しんで死んだ。
自殺の原因は何だったか? 
それが自分たちに関係あることとは一同には思えない。
ところが、実は、彼女の死にはその一家全員が関わっていたことが次第に暴露される。

彼女が賃上げ要求をした労働者のリーダーだったからというので父親のした不当解雇…。
理由にもならないような理由で、衣料品店で働いていた彼女を威力業務妨害的に解雇させた娘…。
そうやって行き場を失った娘を「救う」のは若い男たち。けれどもそのどちらも、本当は彼女を追い詰めるばかりだった。

どんでん返しが続いておーっと思える終盤。
という、面白い本だけど、ミステリーと括るにはちょっと抵抗を感じる部分もあります。それは一連の出来事が犯罪としての決着をみないところ、それと、作者が、責任を持つという意味が狂っているのに気が付かない身勝手と滑稽さを、大戦に向かう社会の段階としてとらえ、真正面から「駄目だ」と語っているところ。
こういう構造のせいで、読後の後味が苦めに感じました、それも心地よい苦さというか。

最初のスピーチでは父親が、資本家は利益を守ることが優先といい、「絶対沈まないタイタニック」の話を交え、それこそが進歩であり、こんな急速に発展する時世に戦争なんか起きないと言っているのも分かりやすい皮肉です。そしてこの劇は何度も上演されているというから、イギリス人の好みってやはりこういう感じか、と思いました。
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チェーホフでは『桜の園』が一番のお気に入りなんですけれども、『三人姉妹』は1度挫折したことがあるので読みなおしてみました。こんな薄い本でどうして挫折したんだか。陰気は陰気なんですけど、でもチェーホフでそんなに明るい話ってないですしね。
ジョナサン・スウィフトの未完作品で、ノートの覚え書き風の、使用人心得。
といっても架空の心得であって、このとおりやっていれば、相当たちの悪い使用人ということになるでしょう。それを主人に勘付かれないように、というマニュアルでもあるのですが。
付録的にとある試論がついているのですが、これは真面目に読むと気分が悪くなります。
貧しいアイルランドの親に、養えないなら子供を売れと勧める実用パンフレットのような書き方。働き手として売れ、ではないのです。赤ん坊を食用に、ということ。

この本は古書で手に入れましたが、いまどき絶版としても当然かも知れないです。
ただ、スウィフトはこれをパラドックスで書いていることは明かなのであり、主人を欺いてワインや蝋燭をちょろまかせというマニュアルを読ませたいような使用人の状況や、「赤子を売れ」と勧めさせる社会悪への強烈な怒りというものが感じられます。
前に『幽霊たち』を読んで全然ピンと来なかったのですが、そろそろほとぼりが冷めてまた読んで見る気になりました。
舞台はNY。深夜の謎の電話。妻子をなくし、今は細々と推理小説を書いているクインを、探偵と間違えて依頼したいという内容です。クインは最初は間違い電話ですと拒むのですが、相手の強引さに好奇心が芽生え、相手が間違えている探偵ポール・オースターになりすまして、事件の解決を引きうけます。

ポール・オースターは当然ながら作者の名前。書いている小説の中の探偵はマックス・ワーク。
ペンネームがウイリアム・ウィルソン。このペンネームもポーの小説の主人公を連想させます。

事件は、息子を虐待した学者が刑期を終えて、息子に復讐しに来るに違いない、という、それだけ見るとこれからサスペンスになっていくのかという設定ですが、そうはなりません。クインはその老学者の行動を徹底的に尾行し、たどった足取りを記録します。その記録が図形を描いていて、数日のうちに「THE TOWER OF BABEL」と綴るという・・・・・・。
それでクインは老学者と接触し、そこでは言語哲学めいたやりとりこそありますが、事件のにおいは全くなし。日に何度も会うのに、老学者はクインを見知った人物であることすら忘れています。依頼者と連絡はつかなくなる、ポール・オースター宛ての小切手はつき返されたと言う、それなのに何ヶ月も無償で、老学者の入った安ホテルを見張るクイン。
尾行中に、自分の本を読む若い女を見て、つい感想を尋ねると、可もなく不可もなくという感じで、冷静過ぎる答えが返って来ます。(作家としてこれは面白くありませんよね。)そのささいな出来事とつながる、最後のクインの失踪に至るまでの流れが変化するモザイク図形か何かのようで、もはやストーリーを追うという意味での小説としてはどうなのか?と思われる、カフカ的世界でありました。カフカは好きでしたが時代性というのもやはりあるので、それを目一杯現代版にしてくれていること、それから、この作品の迷宮は文学と言語をメインに出来あがっているらしいことは嬉しかったです。(City of Glass 角川文庫・訳=山本楡美子/郷原宏)
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某勉強は続行中だが、忙しいので思うようにははかどらない。
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